2004年8月6日金曜日

one dollar is here.

 昨日書いた対消滅した1ドル紙幣の解答です。トラックバックして下さったShirak!<シラク>の綾辻守人さんは、


このあたりの巧みなレトリックの罠に騙されているような気がします。

と書いていますが、まさに卓見です。昨日掲載した問題文には、レトリック(文章技術)の罠が仕掛けられています。
 具体的には、最後の2センテンスですね。つまり


3人の旅人は、ボーイから1ドルずつ返してもらったので、9ドルずつ払ったことになり、9ドル×3人で27ドルです。ボーイのポケットの中の2ドルを足すと、29ドル。さて、残りの1ドルはどこへいったのでしょうか?

です。特に最後の一文は狡いという他無いでしょう。

 さて、解答ですが、非常に簡潔に書くと

「1ドルはどこへもいっていない」

となります。これだけでは分かり難いかもしれないので、説明しましょう。



 まず、問題文で提示された「場」には合計で30ドルのお金しかないものとします(その30ドルを誰が持ってるに関わらず)。そうして、問題文を4つの時系分割し、その時系列に沿って30ドルの流れと、その所持者を見ていきましょう。

初期状態:旅行者がホテルに入る前
旅行者1=$10、旅行者2=$10、旅行者3=$10、オーナー=$0、ボーイ=$0
状態2:それぞれの旅行者が10ドルずつ合計30ドルをオーナーに支払う
旅行者1=$0、旅行者2=$0、旅行者3=$0、オーナー=$30、ボーイ=$0
状態3:旅行者に余剰分を返却する為にオーナーがボーイに5ドル渡す
旅行者1=$0、旅行者2=$0、旅行者3=$0、オーナー=$25、ボーイ=$5
最終状態:ボーイが旅行者1-3に、それぞれ1ドル返却する
旅行者1=$1、旅行者2=$1、旅行者3=$1、オーナー=$25、ボーイ=$2

 はい。1ドルは何処にも消えていませんね? まだ納得できませんか? 金銭に+-の符号を付けると分かり易いでしょう。最後のパラグラフで

3人の旅人は、ボーイから1ドルずつ返してもらったので、9ドルずつ払ったことになり、9ドル×3人で27ドルです。

と説明されていますが、この27ドルは旅行者から見るとマイナスのお金です(それぞれの財布から9ドル減った訳ですから)。逆に、ホテル全体(オーナー+ボーイ)にとってはオーナーが得た25ドルとボーイが得た2ドルはプラスのお金で、合計+27になります。

 旅行者側をマイナスの系、ホテル側をプラスの系は、それぞれ独立して金銭の流れを考えなければいないのです。両者を天秤のそれぞれの片方だと考えると良いでしょう。マイナスの皿には負の数を乗せると沈み正の数を乗せると浮きます。他方でプラスの皿には正の数を乗せると沈み負の数を乗せると浮く特殊な天秤です。

 最終状態だと、この天秤は-27=+27という状態で釣合っています。問題文では、プラス皿から+2をマイナス皿に移しているにも関わらず、-25=+25という状態にならず、あたかも-29=+25という状態になるかのように表現しているのです。

 なんか上手く説明できませんが、分かってもらえたでしょうか。


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