2011年4月10日日曜日

自転車にまつわる誤解

 ウェブを徘徊して自転車(主としてBrompton)について書いてある文章を読むと、時々以下の様な誤解を見掛けます。

  1. 曰く、小径車は向い風に弱い
  2. 曰く、小径車は上り坂に弱い
  3. 曰く、小径車は漕ぎ出しが軽い
  4. 曰く、内装変速機はペダルを漕いでいる時に変速できない

 これらは全て間違いか不適切な表現です。説明します。但し以下で論じるのは、ある一定以上の品質で設計された自転車のみを対象にします。ホームセンタで販売されている安かろう悪かろうな自転車や、ママチャリといった物は考慮していません。

(1)小径車は向い風に弱い

 向い風に強いか弱いかは、その自転車の前面投影面積によります。前面投影面積というのは要するに自転車を真正面から見た時の大きさです。これが大きい程風を受け易い訳ですから風の影響をより強くなるわけです(帆が小さい船と大きい船を想像してみましょう)。
 さて、小径車と非小径車(例えば700Cのロードレーサ)の前面投影面積を比較してみましょう。小径車と非小径車の差を明確にする為、ここでは乗っている人、ハンドル、ブレーキアーチといった物を除外して、ヘッドチューブ、フロントフォーク、タイヤの3つの部品のみの前面投影面積を比較します。またタイヤが小さくなった場合の影響を明確にするため、フォークの長さは700Cのフォークと同じだとします(実際こういう設計の小径車もあります。KHSのマンハッタンとか)。
 単純化した図が以下の物です。

図1. 前面投影面積

 左が700Cで右が小径車です。これを見れば明かですが、前面投影面積は小径車の方が小さいのです。従って小径車は向い風に強いと言えます。

 『小径車は向い風に弱い』という誤解があるのは、恐らく多くの小径車がハンドル位置が高く設計されており、乗る人間が前傾姿勢を取る事が出来ず人間の体まで含めた前面投影面積が大きくなる傾向が強いからでしょう。
 しかし、小径のロードレーサという設計の自転車であれば人間の体まで含めても前述の通り前面投影面積は小さくなるのです。風の影響について正しく表現するならば『小径車であるか無いかに関わらず前傾姿勢になる自転車は風の影響を受け難いと言える。小径車ではハンドルが高く設定される事が多く前傾姿勢を取り難いため風の影響も強くなる』という所でしょう。

(2)小径車は上り坂に弱い

 『小径車は下り坂に弱い』なら正しいのですが、上り坂に弱いというのは謎です。一体どういう理屈なのか想像すらつきません。

 上り坂に於いて重要なのは、概ね重量とギア比です。小径車というのは単純に比較すると車輪の大きい自転車よりも重量は軽くなるのでこの点では有利です。ギア比については、外装変速機ならフロントチェーンリング、リアスプロケットの組み合わせ(内装変速機ならばそれらに加えて内装ギア比)で決まるので小径であるかどうかは無関係です。

(3)小径車は漕ぎ出しが軽い

 漕ぎ出しの軽さ(漕ぎ出すのに必要なエネルギィの小ささ)に対して支配的な要素は、ひと漕ぎ進む距離です。この値は、ギア比(フロントチェーンリング歯数とリアスプロケット歯数の商)とタイヤの周長の積で決まります。殆どの場合小径車はひと漕ぎで進む距離が700Cのクロスバイク等と同程度になる様に高いギア比が設定されています。フロントチェーンリングが大きいかリアスプロケットが小さい、或いはその両方です。
 例えばBD-1 Speedならタイヤ周長は1840mmでフロントチェーンリングは54T、リアトップは9Tですからトップギアで漕ぐとひと漕ぎで8040mmです。これは700x23Cのタイヤでフロントチェーンリング50T、リア13Tの場合の8061mmとほぼ同じ値(差は0.3%未満)です。Bromptonの6速モデルであれば、トップギアであれば7910mmです。

 タイヤ径が小さければ回転モーメントが小さくなるので漕ぎ出しが軽いのではないかと言う人がいます。実際に回転モーメントを計算してみればわかりますが、例えば700C(ほぼ27インチ)と16インチWOのタイヤの場合で、回転モーメントの差が漕ぎ出しに必要なエネルギィの差に与える影響は極微(1%未満)です。しかしまあ1%未満とは言え、影響が無くは無いので完全に間違いとは言えませかね。

(4)内装変速機はペダルを漕いでいる時に変速できない

 これも表現が不適切ですね。正確にはリアスプロケットにトルクが掛かっている時は変速できない、です。ですからペダルを空漕ぎしている分には幾らでも変速できます。というか寧ろ変速する為には、空漕ぎ(少しならトルク掛かってもOK)が必要です。完全に静止した状態で変速レバーだけ弄っても変速はしません。



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